サリー・カーソン「ねじれた十字架」:忘れられていた1934年の小説がいま注目される理由
1934年に出版され、それから長い期間忘れられていた一つの小説が今年になって再版され、注目を集めているという話題をGuardianの記事で知りました。
A prophetic 1934 novel has found a surprising second life – it holds lessons for us all | Guardian
この作品「ねじれた十字架」は、サリー・カーソンというイギリスの若い女性作家の手によって1934年に出版され、評論家には好評で迎えられて舞台にもなったものの、長らく忘れ去られていました。。
それをペルセポネ・ブックスという、20世紀の女性作家を発掘する出版社が数少ない原書を発見して再版したところ、アメリカや世界の現状とあまりに似ていることが話題になったのだそうです。
舞台となっているのは1932年から翌年にかけてのドイツ。ちょうど選挙によってナチス党が大きく力を付け、ヒトラーが連邦首相に選出されるまで時代を、ドイツの一般的な家庭に焦点をあてて描き出しています。
ファシズムと戦争が迫る中、隣人が、兄弟が、家族が、しだいにナチズムの時代の空気に呑まれてゆく不安と価値の転倒や息苦しさ物語の核となっています。生きる意味を失っていた若者たちがナチズムに希望を見いだして心酔してゆく様子や、それまで自分がユダヤ人であることを意識していなかった登場人物がしだいに身の危険を確信する描写などは、まさにいまのアメリカの状況とさまざまな平行線を描くことができるわけです。
興味深いのは、著者のサリー・カーソンがさまざまな報道や個人的体験を通して国外からドイツで起こっている出来事を克明に、しかもたった数年の時間差で作品にしているところです。サリー・カーソン自身は1941年には若くして亡くなっているので、戦後にナチスがどうなるかを見届けたわけではありません。
時代が暗くなってゆく切迫感がそのまま描写されているところが、いまの読者の心をつかんだといえます。
ひとまず、書籍を丹念に追っている時間はなさそうなので、オーディオブックで手に入れたのを読もうかと思っています。